■トロンボプラスチン誘発急性播種性血管内凝固の犬モデルにおける低分子ヘパリンの効果
Efficacy of low molecular weight heparin in a canine model of thromboplastin-induced acute disseminated intravascular coagulation
Res Vet Sci. August 2005;79(1):69-76.
Reinhard Mischke, Michael Fehr, Ingo Nolte
この研究の目的は、麻酔下の犬に対し犬肺トロンボプラスチン抽出物の4時間注入により誘発した急性DICにおいて、異なる用量の低分子ヘパリン(LMWH)の効果を研究することだった。
最初の2時間で全ての犬において、フィブリノーゲン濃度、血小板数、第V因子、抗トロンビン活性の低下を伴う急性DIC発症が特徴付けられた。トロンボプラスチン注入開始から2時間で、異なる用量のLMWH静脈内投与を実施した。2群と3群は、トロンボプラスチンとLMWHの平行投与の期間、それぞれ血漿濃度が0.27±0.01から0.36±0.02抗FXaU/ml、あるいは0.62±0.08から0.90±0.07抗FXaU/ml(mean+/-SD)に達するようにした(1群=コントロール;4頭/群)。この期間、第V因子活性、フィブリノーゲン濃度の変化は2群とコントロールで差が見られなかった。これは3群とは対照的だった。この研究結果は、重度犬DICの症例で消費反応の効果的な中断を行うには高濃度の血漿ヘパリンが必要であることを示す。(Sato訳)
■動脈血栓塞栓症の猫46頭に対するストレプトキナーゼ投与に関する回顧的研究
Kari E. Moore, DVM et al; J Vet Emerg Crit Care 10[4]:245-257 Oct-Dec'00 Retrospective Study 18 Refs ;Retrospective Study of Streptokinase Administration in 46 Cats with Arterial Thromboembolism
ストレプトキナーゼ(SK)で治療した、動脈血栓塞栓症(ATE)の猫46頭に対する回顧的評価を行いました。
45頭の猫で、重大な心疾患を診断し、21頭の猫にはうっ血性心不全がありました。ストレプトキナーゼの様々な投与体系で、臨床症状発生後1−20時間(中央値5.5時間)の投与を行いました。
臨床症状発現後のストレプトキナーゼ投与時間を基にした、生存群と非生存群の違いはありませんでした。25頭(54%)は、治療2−24時間以内に脈拍が戻りました。14頭(30%)の運動機能は、9時間から6日の間に回復しました。15頭(33%)は退院し、18頭(39%)は病院で死亡し、13頭(28%)は合併症や治療の反応が悪く安楽死を実施しました。片足の機能不全の5頭中4頭(80%)は、退院しました。
ストレプトキナーゼ投与後、命に関わる高カリウム血症を16頭(35%)で診断しました。高カリウム血症は、長期間のストレプトキナーゼ点滴でよく起こりえるものでした。11頭(24%)で、投与に関わる出血の臨床症状が発現し、それらのうち3頭は輸血が必要でした。検査所で検査を行った17頭中11頭で、ストレプトキナーゼ投与に続く凝固障害が明らかとなりました。
ストレプトキナーゼ投与前の低体温や高窒素血症、そして高カリウム血症の発現と、生存率との関係は否定的でした。(Dr.Sato訳)
■犬猫の播種性血管内凝固
C. Guillermo Couto, DVM, Dipl. ACVIM; Vet Med 94[6]:547-554 Jun'99 Symposium 8 Refs ;Disseminated Intravascular Coagulation in Dogs and Cats
このよく遭遇する、ややこしい疾患は、たびたび予後不良の結果に終わります。しかし早期にこの状態を認知すれば、治療の成果は有望なものとなります。播種性血管内凝固(DIC)は、消耗性の凝固障害や脱繊維素症候群とも呼ばれ、過度な血管内凝固が、多臓器微細血栓症と逆説的な出血を引き起こす、複雑な症候群であると認識されております。DICにおいて、出血は繊維素溶解現象を高める二次的凝固因子と、血小板の過度な消費や不活性化によって引き起こされます。DICは特異的疾患というよりも、むしろ多様な臨床状況における一般的な機序であります。さらにDICは、凝固試験の結果や患者の状況に著しく変化する機能的現象を構成し、治療経過中に繰り返し、そして急速に発現します。この症候群は犬と猫において比較的よく遭遇します。
一般情報
・ 消耗性凝固異常、脱繊維素症候群、DICとも呼ばれます。
・ 過度の血管内凝固が多臓器微小血栓症と逆説的出血を引き起こすような症候群。
・ 出血は繊維素溶解現象の増加による凝固因子や、血小板の過消費または不活性化の両者によって引き起こされます。
・ DICはゆるやか、または急に起こると考えられますが、いったん始まると、患者の変化が急速に起こり、述べられているような治療で、二次的変化に対し慎重なモニタリングが必要とされます。
・ 犬と猫の両者で一般的です。
病因論
DICは病気と状態に関連があると考えられます。下記の結果として始まると考えられます。
・内皮の損傷−これは感電や熱射病で発現し、敗血症関連DICを伴うかもしれません。
・血小板活性化−これはFIPのようなウイルス感染で起こります。
・ 組織凝血原の放出−これは外傷、溶血、膵炎、細菌感染、急性肝炎、そして血管肉腫の ようなある種の腫瘍の結果として起こり得ます。
脈管系内凝固段階の活性化はいくらかの事象に割り当てられます。
一期、二期止血作用血栓の構成
・これは結局のところ、虚血を引き起こす微小循環系における多様な血栓の結果起こり得ます。
・血小板消耗→血小板減少
繊維素溶解系の活性化
・血餅溶解
・凝固因子の不活性化
・血小板機能低下
抗トロンビンV、潜在性蛋白C&Sの消耗
・正常抗凝固物質の枯渇
微小循環系における繊維素形成
赤血球変形→赤血球破壊、分裂赤血球、溶血性貧血
組織灌流の低下は低酸素症、アシドーシス、肝臓、腎臓、肺機能障害、そしてDICを悪化させる心筋抑制因子の放出を起こします。単核食細胞系機能も低下し、血中のフィブリン分解産物、他の副産物、細菌の増加を引き起こします。
DICにおいて、外観上逆説的な出血傾向を止めるためのヘパリン投与は、抗トロンビンVに対するヘパリン作用のためであり、有効であれば血管内凝固を阻止するからです。これは凝固因子と血小板機能に対しその抑制効果を減少させることで、繊維素溶解活性化を遅くします。
犬と猫におけるDICに関連した疾病と状態 腫瘍性疾患 感染性疾患 炎症 その他様々 血管肉腫(D)
血管腫
転移性甲状腺癌
転移性乳癌
前立腺癌
リンパ腫(C)
胆管癌
(D)=犬でもっとも一般的
(C)=猫でもっとも一般的敗血症
細菌性心内膜炎
レプトスピラ症
犬伝染性肝炎(D)
バベシア症
犬糸状虫症
猫伝染性腹膜炎(C)化膿性皮膚炎
化膿性気管支肺炎
急性肝臓壊死
慢性進行性肝炎
膵炎
出血性胃腸炎
多形紅斑ショック
熱射病
毒ヘビ咬傷
肝硬変
アフラトキシン中毒
免疫介在性溶血性貧血(D)
寒冷凝集素病
胃拡張胃捻転症候群
うっ血性心不全
心弁膜繊維症
横隔膜ヘルニア
術後合併症
真菌性菌腫
腎アミロイドーシス
肺血栓塞栓症
肝リピドーシス(C)
臨床的特徴
慢性無症候(潜在性)
・患者は大抵、自然発生的な出血は無いが、止血系評価は異常で、DICと矛盾しません。
・ これは悪性腫瘍と、あるいは幾らかの慢性疾患に付随する犬や猫でもっとも一般的に認められる形です。
急性(劇症)
・ これは感電や熱射病、膵炎のような急性事象の結果起こるかもしれませんが、しばしば進行潜在性疾患を持つ患者において、突然の代償不全の結果起こります。
・重度出血傾向を持つ患者は、貧血と血栓症に関連していました。
・ 一時的(点状出血、斑状出血、粘膜出血)および二次的(体腔内出血)止血作用欠陥に関連する兆候が見られます。
診断(ここでは、臨床的DICは猫でまれなので、犬に焦点を絞ります)
著者は、患者が下記の異常の4つ以上と、分裂赤血球増多症を示したときDICであると見なします。
・ 血液像:溶血性貧血、血色素血症、血色素尿症、赤血球破砕または分裂赤血球、血小板減少症、好中球左方移動、まれに好中球減少症が認められかも知れません。
・ 血清生化学所見:これには溶血または肝血栓症による二次的な高ビリルビン血症、腎微細血栓症に関する高窒素血症と高リン血症、低酸素症や肝微細血栓症による肝酵素の増加、総CO2の減少、あるいは重度出血による汎低蛋白血症が含まれます。
・ 尿検査:所見として血色素尿、ビリルビン尿、随時の蛋白尿、尿円柱が見られるかもし
れません。膀胱穿刺による尿採取は禁忌です。
・ 止血作用変化:これには血小板減少、OSPT延長(現行対照の>25%)、および/またはAPTT延長、繊維素原減少症、フィブリン分解産物テスト陽性、抗トロンビンV濃度減少があります。 プラスミノーゲン活性の低下による繊維素溶解現象の増大と血餅溶解検査の増大も見られるかもしれません。
治療
推奨する治療は、さまざまな治療効果の評価に関する臨床試験は、今までされたことが無いので、著者の経験を基本とします。確定的なDICまたはその疑いが高いものは、犬でも猫でも即座の治療を行って良いでしょう。
可能性ある原発性疾患を除外する−効果的だが困難な場合がほとんどです。
血管内凝固の阻止
ヘパリンと血液または血液製剤の投与。新鮮全血や新鮮凍結血漿の投与が推奨されるのと同様に、ヘパリンは血漿中において、十分な抗トロンビンV活性を持つものでなければなりません。ヘパリンは有用であると科学的に確定はされておりませんが、臨床上、著者はヘパリン治療でDIC患者生存の向上を経験しています。
ヘパリン投与範囲
・最低用量ヘパリン:5-10U/kg.SC.TID
・低用量ヘパリン:100-200U/kg.SC.orIV.TID
・中用量ヘパリン:300-500U/kg.SC.orIV.TID
・高用量ヘパリン:750-1000U/kg.SC.orIV.TID
著者は、正常犬におけるACTまたはAPTTに対する影響を最小限にするため、血液・血液製剤を併用した最低用量のヘパリンの使用を推奨します。最初のヘパリン投与量を、血液または血漿に加えます。そして投与前30分間室温に放置します。これは恐らくヘパリン・抗トロンビンV複合体の活性化と、結合形成のための時間です。APTTの延長は150-250U/kg.TID.の用量を投与されるまでは、正常犬で認められないので、ACTまたはAPTTの延長患者へのヘパリン最低用量投与は、継続している血管内凝固が進行していることが想定でき、治療を変更するべきであります。
中用量または高用量ヘパリンは、断絶した微細血栓症の患者、たとえば等張尿を伴う重篤な高窒素血症、肝酵素増大、呼吸機能不全や低酸素症などの患者に使用できます。目標はACT時間が、2または2.5分基準ラインか正常までに延長することです。もし、ヘパリン投与過剰があれば、最終ヘパリン投与量の100Uあたりプロタミン硫酸塩1mgを、それぞれ最終投与1時間後、計算量の50%、2時間後に25%をゆっくり静脈注射します。投与量は臨床上の機能が保持されればそこで止めます。犬においてプロタミン注射により急性アナフィラキシーが起こるかもしれません。いったん臨床的、臨床病理的特徴が改善されれば、ヘパリンは3〜4日間で漸減します。
アスピリンは血小板活性予防に使用できるかもしれませんが、著者は有用な手応えを持っておりません。
・犬:5-10mg/kg.PO.BID
・猫:5-10mg/kg.PO.3日に1回
・胃腸出血のモニター(胃腸の出血は重度な凝固障害−DICの患者において生命を脅かし得ます)
実質臓器の組織灌流を維持する
晶質または血漿増量剤の積極的な輸液療法、例えばデキストランは凝固、繊維素溶解因子を希釈、微小血栓のフラッシュアウト、そして低酸素領域に血流を増大するべく、毛細血管と小動脈の開存性を維持するのに推奨されます。腎や肺の機能が悪い患者に対して過水和は禁忌です。
二次的合併症の予防
・酸素マスク、酸素ケージ、鼻咽腔カテーテルでの酸素化
・アシドーシスと心不整脈の補正
・二次的細菌感染の予防
・ 中心静脈系の使用を避けるまたは注意深く使用する。前大静脈血栓症に関係するカテーテルは、乳び胸の原因となり得ます。
予後
DICの犬は、当初の原因をすみやかに除去し、できる限り早く適切な治療を開始しなければ、予後は非常に悪いです。殆どのDIC犬は肺や腎機能不全のため死亡します。あるDICの犬に関する回顧的研究は、54%の死亡率、止血検査における副次的変化を持つ犬の37%から、止血異常(止血検査で3つ以上の異常所見)を示した犬の74%までの範囲であると報告しております。顕著なAPTT延長と血小板減少は、予後不良と関連があります。APTT中央値は、死亡した犬がコントロール犬より93%高い値であるのに対し、生存した犬はコントロールの46%でした。血小板数の中央値は、死亡した犬が52,000/μlであったのに対し、生存した犬は110,000/μlでした。(Dr.K訳)
■犬と猫における血栓溶解療法
Mary F. Thompson et al; J Vet Emerg Crit Care 11[2]:111-121 Apr-Jun'01 Review Article 90 Refs ; Thrombolytic Therapy in Dogs and Cats
目的:人でよく使用される血栓溶解剤の作用機序、効用、副作用、犬と猫での使用に関しての報告を調査すること。
人医学データ総合:人医で使用できる血栓溶解剤には、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、組織プラスミノーゲン活性薬(t-PA)、単鎖ウロキナーゼプラズマ活性薬(scu-PA)、そしてアニソイル基プラスミノーゲン−ストレプトキナーゼ活性薬複合体(APSAC)があります。これらの薬は、もともと中心静脈血栓症や、重度肺塞栓症の管理として使われましたが、最近では、これらの薬物使用は急性末梢動脈疾患、脳血管障害(脳卒中)、そして急性冠状動脈血栓症の治療を含むまでに広がりました。血栓溶解治療の使用に関連した、予想できる副作用は出血です。
獣医学データ総合:小動物における血栓溶解剤の臨床治験は、ストレプトキナーゼとt-PAに限られます。PTE(肺血栓塞栓症?)と右心機能不全の犬や猫に対する血栓溶解治療は、人と同様に有益であるかもしれませんが、現在のところ、この学説を裏付ける獣医学研究はありません。全身性血栓塞栓症の犬のわずかな症例で、ストレプトキナーゼの使用成功例が記録されております。血栓溶解治療は大動脈塞栓症の猫において、相対的に効果的ではありますが、高い死亡率と関連があります。今度は、獣医学におけるt-PAの使用に注目すると、多様なプロトコールで少数の動物に治療を行うだけでは、安全で効果的な推奨投与量を、提供する事はできません。
結論:獣医学における血栓溶解治療に関する今後の目標は、死亡率と罹患率を最小限に抑えるべく効果的プロトコールの作成に加え、特異的な臨床適応症の決定であります。(Dr.K訳)