■日本の犬に対する狂犬病予防接種後のアナフィラキシー
Anaphylaxis after rabies vaccination for dogs in Japan
J Vet Med Sci. 2021 Jun 9.
doi: 10.1292/jvms.21-0090. Online ahead of print.
Megumi Yoshida , Keijiro Mizukami , Masaharu Hisasue , Ichiro Imanishi , Keigo Kurata , Masaki Ochiai , Masato Itoh , Tadahiro Nasukawa , Jumpei Uchiyama , Hajime Tsujimoto , Masahiro Sakaguchi
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2004年4月から2019年3月の15年間で、日本の農林水産省(MAFF)に報告された、犬の狂犬病予防接種後の重度有害反応の317症例を調べた。
317症例中109症例はアナフィラキシーを示し(予防接種した10万頭中0.15頭)、その109症例中71頭は死亡した(予防接種した10万頭中0.10頭)ことが分かった。4つの市販の狂犬病ワクチンでウシ血清アルブミン(BSA)を測定し、0.1-16.6μg/ドーズの範囲の濃度と分かった。
この調査は犬の狂犬病ワクチンのアナフィラキシーの割合は非常に少ないが、アナフィラキシーで死亡する症例もいることを示す。獣医師は、ワクチン関連アナフィラキシーに対処する準備を十分するべきである。(Sato訳)
■1997-2001年のアメリカでのワクチン済みの犬と猫にみられた狂犬病
Rabies in vaccinated dogs and cats in the United States, 1997-2001.
J Am Vet Med Assoc.2009 Sep 15;235(6):691-5.
Murray KO, Holmes KC, Hanlon CA.
目的
アメリカにおけるワクチン済みの犬猫の狂犬病発生状況を調べる
デザイン
レトロスペクティブデータレビュー
集団
1997年から2001年の間に1頭以上の狂犬病の報告があった41州
手法
州ごとに1997年から2001年の間に実施された犬と猫の狂犬病検査について問い合わせた。狂犬病ワクチン接種歴のある動物に関しては、詳細なワクチン履歴、年齢、狂犬病罹患動物への暴露、暴露から発症までの時間、臨床症状の持続時間および転帰が死亡なのか安楽死なのか、について聞き取りを行った。
結果
41州中21州(51%)から調査できた。調査期間中、264頭の狂犬病罹患犬と840頭の罹患猫を認めた。その中の13頭の犬(4.9%)と22頭の猫(2.6%)ではワクチン接種歴があった。これらのうち、2頭の犬と3頭の猫では現在でもワクチンを接種していた。全体では6頭の動物(1頭の犬と5頭の猫)が今まで2回分の狂犬病ワクチン接種歴があり、その中の2頭の猫は現在もワクチン接種歴があった。
結論および臨床的重要性
本調査の結果は狂犬病ワクチンを接種している犬猫でも、まれではあるが狂犬病に罹患する可能性があることを示唆している。獣医師はワクチン歴の有無に関わらず、臨床症状が合致するときは狂犬病を鑑別診断に含めるべきである。また継続的な調査により、狂犬病ワクチンの失宜について実証する必要があり、ワクチン失宜に関連した傾向を明らかにする必要がある。(Dr.Ka2訳)
■フィリピンで狂犬病に対する犬の経口ワクチン野外試験
Estrada R et al; BMC Infect Dis 2001;1(1):23
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LinkOut; Field trial with oral vaccination
of dogs against rabies in the Philippines.
背景:フィリピンの狂犬病に対して、将来性のある犬の経口ワクチンの安全性と効果を調査しました。
方法:ワクチンキャンペーンに先だって、研究地域(ミンドロ沿岸の村)の犬集団のデータを集めるために個別調査を行いました。キャンペーン中に再び全ての家庭を訪問し、遭遇した全ての犬(2ヶ月齢以上)に可能な限りワクチネーションしました。さらに別の時期に、ワクチネーションを行った14頭の犬の血液を採取しました。
結果:調査の間、犬は全部で216頭となりました。その動物たちは以前に狂犬病のワクチンを接種したことがありませんでした。17頭の犬だけは拘束することができたので、拘束後にワクチン施行者により直接ワクチネーションが行われました。他の126頭の犬には、その地域で作られたボイルした腸の肉餌を用い、その中に3.0
ml SAD B19 (107.9 FFU/ml)を充填したカプセルを入れ投薬しました。96.1%の犬が与えた餌を食べてくれました。2ヶ月齢以上の犬全体のワクチネーションの適用範囲は、直接ワクチネーションした頭数と餌を与えた頭数によって推定され、引き続きワクチン容器の封を切ったのが76%でした。ワクチンキャンペーンの15日後と29日後にそれぞれ6頭および10頭(n=14)の犬の狂犬病ウイルス中和抗体価を調べたところ、それぞれ0.5
IU/ml以上となっていました。ヒトを含む目標とされていない動物種への、偶発的なワクチンウイルスの接触は報告されていません。
結論:キャンペーンの結果、狂犬病に対する犬の経口ワクチンは、フィリピンにおける狂犬病コントロールを補う方法として有益であることを示しています。(Dr.Shingo訳)
コメント:経口ワクチンが開発、実用化されようとしつつあるフィリピンでは狂犬病問題は深刻化しているようですね。以前、フィリピンから犬を連れて帰国された方がいました。日本での検疫は受けたようですが、話によりますと、その頃、フィリピンでは内戦で動物どころではなかったようです。人間が生きる事自体、大変だったようです。なので、あちらでは、予防などもおろそかになりがちだったそうです。経口ワクチンが開発されるようになったいきさつにはこのような背景もあるのでしょうか?狂犬病のシーズンに合わせてと思い、今回、日本とアメリカとフィリピンを比較してみました。狂牛病対策で精一杯の現在の日本に狂犬病対策をお願いするのは無理な話かも知れません。やっぱり発生してからじゃないと動いてくれないのでしょうね・・・。私の偏見かも知れませんが、数年後に日本が狂犬病でパニックになっている事を想像してしまうのです。皆さんはどう思われますか?
■2000年のアメリカにおける狂犬病調査
Krebs JW et al; J Am Vet Med Assoc 2001 Dec
15;219(12):1687-99 Related Articles, Books,
LinkOut; Rabies surveillance in the United
States during 2000.
2000年にアメリカ49州とコロンビア地区およびプエルトリコにおいて、人間以外の動物7364例と人間5例について、疾病管理予防センターが狂犬病に関する報告を行いました。これは、ヒト以外の動物では1999年の7067例から4.3%の増加でした。93%(6855例)が野生動物であったのに対し、家庭動物種は6.9%(509例)でした(1999年は野生動物91.5%、家庭動物種8.5%)。1999年の報告と比較して2000年の報告された症例数は、コウモリ、犬、キツネ、スカンク、羊・山羊で増加し、猫、牛、馬・ラバ、アライグマ、豚では減少していました。調査対象となった主な動物の関連寄与率を以下に示しました。
アライグマ(37.7%; 2,778 例)、スカンク (30.2%;
2,223例)、コウモリ (16.8%; 1,240例)、キツネfoxes
(6.2%; 453例)、猫(3.4%; 249例)、牛 (1.1%;
83例).
狂犬病ウイルスのアライグマ関連性変異株が地方病として存在している19州のうち10州で、2000年の狂犬病症例数が増加していることが報告されました。
大規模な野生動物の狂犬病コントロールプログラムが約束された州のうち、オハイオ州で報告のあったアライグマ(あるいは他の陸生動物種)における家畜流行性狂犬病の症例はありません(1999年には6例の報告がありました)。テキサス州では犬およびコヨーテ変異株に関連した狂犬病の報告はありませんでした(1999年は犬5頭を含む10例の報告)。そして、グレイフォックス変異株に関連した症例では減少しました(2000年は38頭のキツネを含む58症例でした)。マサチューセッツとロードアイランドにおいて、狂犬病に罹患したアライグマから蔓延したスカンクの狂犬病が4年連続して報告されました。全国的にスカンクの狂犬病症例数は1999年の報告より7.1%増加しました。テキサス州では狂犬病に感染したスカンクは数字的には最大の増加率です(1999年の192例に比べて2000年には550例)。2000年に報告されたコウモリ(1240匹)の狂犬病症例数は1999年の989匹と比較すると25.4%増加しました。そしてこれは記録された哺乳動物グループの中でも最大の全体数に対する寄与率(全狂犬病罹患動物の16.8%)を表していました。1999年より牛では83頭、猫では249頭の報告があり、それぞれ38.5%、10.4%減少しました。ところが、犬では114頭で2.7%増加しています。馬とラバでは1999年の65例から2000年には52例と20%減少しました。ヒトで報告された個々に獲得した狂犬病の原因は、コウモリと関連した狂犬病ウイルス変異株によるものでした。アメリカ郊外で発見されたヒト狂犬病の1症例は、犬の咬傷が原因となる犬変異株によるものです。(Dr.Shingo訳)
■日本における狂犬病コントロール
Takayama N. ; Jpn J Infect Dis 2000 Jun;53(3):93-7
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control in Japan.
1957年、日本では家庭犬の登録と拘束、のら犬の排除そして犬のワクチネーションの義務づけにより、18世紀以来風土病であった狂犬病の根絶に成功しました。しかしながら現在では、家庭犬のワクチネーションの適用範囲は、70%の要求レベルよりもさらに低いのです。現在、狂犬病を調査することのできる施設の数に限りがあります。加えて、いくつかの医療施設は狂犬病ワクチンをストックしており、または狂犬病流行地域の動物に噛まれた旅行者の為に暴露後の接種を提供しています。さらに、狂犬病免疫グロブリン(RIG)は、そのような個人に適用することができません。なぜならRIGは現在日本で生産されておらず、その輸入さえ認可されていません。日本を狂犬病死から守り続けて行くためには、犬の間でのワクチネーション適用範囲の改善と暴露前の予防接種の供給が必要となります。そして、狂犬病監視システムの確立もまた重要であると考えられます。(Dr.Shingo訳)