■2022年のイギリスの救急獣医療のもとの犬における熱関連疾患の疫学
Epidemiology of heat-related illness in dogs under UK emergency veterinary care in 2022
Vet Rec. 2024 May 23:e4153.
doi: 10.1002/vetr.4153. Online ahead of print.
Sian Beard , Emily J Hall , Jude Bradbury , Anne J Carter , Sophie Gilbert , Dan G O'Neill

背景:イギリスや多くのヨーロッパで現在まで最も暑い年を記録した2022年、犬は熱関連疾患(HRI)の発症に対する環境リスク増加に晒されている。

方法:この研究は、2022年の間にイギリスのVets Now emergency care practicesを受診した犬において、HRIに対する発生リスク、事象死亡率と犬のリスクファクターを報告するためVetCompassデータを使用した。

結果:2022年、Vets Now emergency clinicsで治療を受けた167751頭の犬の臨床記録から、384のHRI事象を確認した。Vets Now取扱件数内でHRIの2022年の発生リスクは0.23%(95%CI:0.21-0.25%)で、事象死亡率は26.56%(95%CI:21.66-32.25%)だった。多変量解析で、HRIに対するリスクファクターとして、犬種、年齢、性別/不妊状況を確認した。短頭種犬は、中頭種犬よりもHRIになる確率が4.21倍高かった(95%CI:3.22-5.49、p<0.001)。

制限:この研究に使用した臨床データは、主に研究に対し記録されたものではなく、いくつかのかなりのレベルの不明データ(特に犬の体重)があった。

結論:イギリスの犬において、犬の福祉を保護するため、HRIのリスクおよび関連した死亡を最小限にするために、至急、改善した長期の軽減戦略が必要である。(Sato訳)
■オーストラリアのニューサウスウェールズ州の犬の熱中症の発生率とリスクファクター(1997-2017)
Incidence and risk factors of heat-related illness in dogs from New South Wales, Australia (1997-2017)
Aust Vet J. 2023 Oct 30.
doi: 10.1111/avj.13296. Online ahead of print.
J S Tripovich , B Wilson , P D McGreevy , A Quain

地球温暖化による熱波急増により、犬の熱中症(HRI)は増えると予想される。犬のHRI(熱射病)の最も重症型は、死に至る可能性もある。

この研究は1997-2017年までのオーストラリア、NSW州の犬のHRIの発生率とリスクファクターを調査することだった。

この期間中に119のHRI症例を確認し、死亡率は23%だった。雑種犬と比較した時(すなわち、参照変数)、HRIのリスクが高い犬種は、オーストラリアン・スタンピーテイル・キャトルドッグ、ブリティッシュ・ブルドッグ、フレンチ・ブルドッグ、マレンマ・シープドッグ、イタリアン・グレーハウンド、チャウチャウ、エアデール・テリア、パグ、サモエド、イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル、ラブラドール・レトリバー、ゴールデンレトリバー、キャバリア・キングチャールズ・スパニエル、ボーダー・コリー、スタッフォードシャー・ブル・テリア、pooled non-Australian National Kennel Council breeds(アメリカンおよびオーストラリアン・ブルドッグを含む)だった。

予測として、HRI症例は、12月と1月、オーストラリアの夏季中、より暑い年(例えば2016年)の間に起こる確率が高かった。オスとメスや、不妊済みあるいは未不妊の間にHRIのリスクの違いはなかったが、より年齢の高い犬はリスクが増加した。

それらの所見は、特に地球温暖化により気温が上昇し続けると思われ、犬のリスクファクターをモニターし、より理解するため、犬のHRIの発生率を可能にするデータ収集の必要性を強調する。

HRIによる死亡リスクは、飼い主が可能な限り早く獣医師に罹患犬を受診できるように、HRIの予防及び早期認識にフォーカスした教育プログラムの必要性を支持する。(Sato訳)
■致死的熱射病の犬における病理所見
Pathological findings in dogs with fatal heatstroke.
J Comp Pathol. 2009 Feb-Apr;140(2-3):97-104.
Y Bruchim, E Loeb, J Saragusty, I Aroch

致死的熱射病の犬11頭を死後に肉眼的および病理組織学的に検査した。全ての犬に凝固壊死を伴う多臓器出血傾向を認めた。空気塞栓および瀰漫性浮腫が皮膚(8頭)、肺(11)、脳(11)、骨髄(1)に観察された。脾髄(10頭)および肝類洞(9)のうっ血も見られた。壊死は小腸粘膜(7頭)、大腸粘膜(8)、腎尿細管上皮(9)、肝実質(8)、脳神経組織(4)で観察された。
結果から自然発生致死的熱射病は多くの体系に影響する急性の多臓器病変を誘発し、出血傾向、微小血栓症、凝固性壊死などがより優勢な病変と示唆される。おそらくそれらは、多臓器機能不全や死亡を導く高体温誘発播種性血管内凝固および全身炎症反応症候群の結果である。(Sato訳)
■イヌの熱射病:異常生理学と素因
Heatstroke in Dogs: Pathophysiology and Predisposing Factors
Compend Contin Educ Pract Vet 25[6]:410-418 Jun'03 Review Article 19 Refs
W. Shannon Flournoy, MS, DVM; James S. Wohl, DVM, DACVIM, DACVECC; Douglass K. Macintire, DVM, MS, DACVIM, DACVECC

熱射病は、心血管、胃腸管、腎臓、肝臓、内皮、筋骨格、中枢神経組織に対する直接熱性傷害から起こる急速に進行する命にかかわる緊急状態である。細胞への熱性傷害は、タンパクの変性、酵素系の不活化、細胞膜脂質の破壊、ミトコンドリア機能の変性を通し、全身性の細胞壊死を引き起こす。熱射病は、適切な冷却、熱放散メカニズムを通し正常な体温調節を維持する体の集合的な能力不足により促進する。
典型的な(または非運動性)熱射病は、一般に過熱した囲いにイヌが閉じ込められたときに起こる。運動性の熱射病は、筋肉の活動に関係し、ほとんどのイヌは肥満、喉頭麻痺、短頭種のような素因を持つ。熱射病の合併症は、乏尿性腎不全、播種性血管内凝固、心不整脈、敗血症性ショック、発作などである。(Sato訳)
■イヌの熱射病:臨床症状、治療、予後、予防
Heatstroke In Dogs: Clinical Signs, Treatment, Prognosis, and Prevention
Compend Contin Educ Pract Vet 25[6]:422-431 Jun'03 Review Article 30 Refs
W. Shannon Flournoy, MS, DVM; Douglass K. Macintire, DVM, MS, DACVIM, DACVECC; James S. Wohl, DVM, DACVIM, DACVECC

熱射病は、複雑な異常生理学を伴う、急性で命にかかわる緊急疾患である。鍵となる臨床的特徴は、代謝性アシドーシス、乏尿性腎不全、凝固異常、神経障害である。身体検査では、過度のパンティング、充血、流涎、頻脈、様々な神経症状が目立つ。熱射病に関係する一般的な検査での変化は、血液濃縮、肝酵素の上昇、電解質変化、凝固時間の延長、高窒素血症、低血糖である。核体温の急速な冷却と生命維持に必要な器官の支持が、熱射病の管理と更なる二次的続発症の予防で重要な要因である。治療経過を通し重度神経症状が起こったり、継続するようならば予後は悪化する。熱射病となった動物のオーナーが、病院に輸送するまでに体を冷やしているなら、死亡率は低下しえる。オーナーにてきとうな環境順化時間、その日のより涼しい時間での運動、屋内にイヌを繋ぐときの適度な日陰と冷水を与えることなど指導しておくことで主に熱射病の防止は達成される。(Sato訳)