■胸腺関連性重症筋無力症の外科的治療を行った9頭の犬の術前管理と術後合併症
Preoperative management and postoperative complications in 9 dogs undergoing surgical treatment of thymic-associated myasthenia gravis
Can Vet J. 2024 Jul;65(7):682-691.
Sarah E Saylor , Michelle L Oblak , Marije Risselada , Kelley M Thieman , Charly McKenna , Valery F Scharf

目的:犬猫の胸腺腫関連の腫瘍随伴症候群には、重症筋無力症、高カルシウム血症、剥脱性皮膚炎、多形紅斑、T-細胞性リンパ球増加症、心筋炎、貧血、多発性筋炎が含まれる。腫瘍随伴重症筋無力症(MG)は、胸腺上皮腫瘍の犬において、最も報告されることの多い腫瘍随伴症候群である。この研究の目的は、術前管理、術後合併症、それら症例の結果の最新の臨床像を提供する特定の目的と共に、外科的に治療した犬胸腺関連MGの症例を調査することだった。

動物:胸腺上皮腫瘍の外科的切除を行った腫瘍随伴MGの犬9頭

方法:2012年1月1日から2022年10月1日の間で胸腺上皮腫瘍の外科的治療を受けたMGの犬の医療記録を、4か所の獣医教育病院から入手した。周術期MG管理、合併症、結果の記述を記録した。

結果:9頭中6頭はMGに対する薬剤治療を受け、コリンエステラーゼ阻害薬(4頭)あるいは、コリンエステラーゼ阻害薬と免疫抑制剤(2頭)を術前に投与されていた。術前のMGに対する薬剤治療期間中央値は、7.5日(範囲:2-60日)だった。9頭中3頭は、術後すぐの合併症を経験し、安楽死された。9頭中6頭(66.6%)は退院し、そのうち3頭は執筆時に生存していた。執筆時、6頭中3頭は、MGによる臨床症状が完全に解消し、6頭中2頭は部分的解消だった。それらの犬の手術からMGの臨床症状解消までの期間中央値は63日(範囲:2-515日)だった。

結論:胸腺上皮腫瘍と腫瘍随伴MGの犬は、周術期合併症のリスクが高い。

臨床的関連:この研究の所見は、胸腺上皮腫瘍の犬に対し、腫瘍随伴MGは悪い予後指標と述べている過去の文献を実証するものだが、また獣医療で胸腺関連MGの臨床管理に対するアプローチの変化と、周術管理をガイドする確立されたプロトコールの欠如も強調する。(Sato訳)
■後天性重症筋無力症の診断におけるネオスチグミン投与の臨床的有用性
The clinical utility of neostigmine administration in the diagnosis of acquired myasthenia gravis
J Vet Emerg Crit Care (San Antonio). 2021 Jul 29.
doi: 10.1111/vec.13097. Online ahead of print.
Harry Cridge , Alison Little , Roberto José-López , Theresa Pancotto , Jennifer R Michaels , Marika Menchetti , Anna Suñol , David Lipsitz , Michaela J Beasley

目的:犬と猫において、後天性重症筋無力症(MG)の疑いの診断において、硫酸メチルネオスチグミン投与の臨床的有用性を評価する

計画:回顧的研究(2017-2019)

場所:5か所の大学教育病院と2か所の個人二次診療施設

動物:22頭の犬と3頭の猫。組み込み基準は、後天性MGに一致する臨床症状、ネオスチグミンチャレンジの実施、アセチルコリンレセプター抗体価だった。
介入:なし

測定値と主要結果:ネオスチグミン投与のルートを記録した。ネオスチグミンチャレンジの反応は、硫酸メチルネオスチグミンの投与後の筋力及び歩行の連続評価で判定した。ネオスチグミンチャレンジの反応は、この研究で生化学ゴールドスタンダードとして使用されるアセチルコリンレセプター抗体価と比較した。
22頭のうち16頭を後天性MGと診断した。16頭中13頭はネオスチグミンチャレンジに強陽性反応だったが、16頭中3頭は無反応だった。多発性筋炎の3頭中2頭もネオスチグミンチャレンジに対し強陽性反応だった。弱陽性結果は、頭蓋内腫瘍(n=1)と拡張型心筋症(n=1)、寛骨大腿関節疾患(n=1)で見られた。

1頭の猫が後天性MGと診断され、ネオスチグミンチャレンジに対し陽性反応だった。2頭の猫はネオスチグミンチャレンジに無反応で、代替状況と診断された。2頭の猫はグリコピロレートで前処置され、そのうち1頭は、ネオスチグミンチャレンジに対し軽度の副反応を示した(流涎と軽度の一次的振戦)。
犬22頭中3頭は、最小の副作用があった(流涎と筋肉振戦の1頭)。

結論:ネオスチグミンチャレンジは、過去に利用したエドロホニウムチャレンジに代わる安全で有用な代替法と思われ、特に、反応が弱陽性は、後天性MGに対し陰性と考えられる。多発性筋炎の症例は、ネオスチグミンチャレンジに対し偽陽性反応を示すかもしれない。(Sato訳)
■94頭の犬の後天性重症筋無力症の臨床的特徴と転帰
Clinical features and outcome of acquired myasthenia gravis in 94 dogs
J Vet Intern Med. 2021 Jul 31.
doi: 10.1111/jvim.16223. Online ahead of print.
Jennifer T Forgash , Yu-Mei Chang , Neil S Mittelman , Scott Petesch , Leontine Benedicenti , Evelyn Galban , James J Hammond , Eric N Glass , Jessica R Barker , G Diane Shelton , Jie Luo , Oliver A Garden

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犬の後天性重症筋無力症(MG)の転帰に関係することが分かっている因子は限られている。

仮説/目的:MGの犬の中で、年齢が進んでいることと腫瘍の併発は、長期予後が悪いことと、寛解の率が低いことと関係している

動物:アメリカで、1か所の大学病院と3か所の個人病院で、2001年から2019年の間に、アセチルコリンレセプター抗体(AChR Ab)解析で診断されたMGの飼育犬94頭

方法:症例は回顧的に評価し、臨床症状、治療、臨床的スコアリングルーブリックの平均により定義した治療に対する反応を判定するため、データを収集した。免疫学的寛解は、<0.6nmol/LのAChR Ab濃度へ戻ることと定義した。多変量二項ロジスティック回帰解析を、寛解を予測する臨床的基準の確認に使用した。

結果:抗コリンエステラーゼ薬を90/94(96%)の犬に使用し、そのうち63/94(67%)は単一治療だった;ほかの薬剤は免疫調節剤が含まれた。臨床的寛解(治療中止後4週間以上臨床症状なし)は、29頭(31%(95%CI:22.4-40.8%))、臨床的反応(治療中に臨床症状なし)は14頭(15%(95%CI:9.0-23.6%))、臨床的改善(治療中)は24頭(26%(95%CI:17.8-35.2%))、臨床的な改善無は、27頭(29%(95%CI:20.5-38.6%))に求められた。免疫学的寛解は、27/46頭(59%)で観察され、全27頭は臨床的にも寛解だった。より若いこと(P=.04)および内分泌疾患併発(P=.04)は、臨床的寛解と関係した。最初のAChR Ab濃度(P=.02)と吐出(P=.04)は臨床的寛解と負に関係した。

結論と臨床的重要性:より年を取った犬や、吐出あるいは最初のAChE Ab濃度が高い犬でMGの臨床的寛解の確率は低いが、より若い犬や内分泌疾患併発の犬はより確立が高い。(Sato訳)
■3頭の重度全身性重症筋無力症の治療におけるレスキュー薬剤としてミコフェノール酸モフェチルの使用
Use of mycophenolate mofetil as a rescue agent in the treatment of severe generalized myasthenia gravis in three dogs
J Vet Emerg Crit Care. Aug 2009;19(4):369-374. 37 Refs
Amanda L. Abelson DVM, G. Diane Shelton DVM, PhD, Megan F. Whelan DVM, DACVECC, Lilian Cornejo DVM, DACVIM, Scott Shaw DVM, DACVECC, Therese E. O'Toole, DVM, DACVIM

目的:重度全身性重症筋無力症の3頭の犬の補助療法としてIVおよび経口ミコフェノール酸モフェチル(MMF)の使用を述べる

症例シリーズ概要:アセチルコリン抗体価により確認した重度全身性重症筋無力症に罹患した3頭の犬に、治療の一部としてMMFを投与した。3頭ともに巨大食道のエックス線所見および重度吐出を呈していた。当初、各犬はピリドスチグミンおよび支持的薬剤で治療した。臨床的寛解が達成できなかったとき、MMFを投与した。臨床寛解の徴候は48時間以内に認められ、その後吐出の解消後、経口MMFで維持した。

提供された新奇情報:これは重度全身性重症筋無力症の犬の補助治療としてIV MMFを使用した最初の報告である。3頭の結果は良好で、MMFによる副作用は見られなかった。(Sato訳)
■猫の後天性重症筋無力症の危険因子:105症例(1986-1998)
Risk factors for acquired myasthenia gravis in cats: 105 cases (1986-1998).
J Am Vet Med Assoc. 2000 Jan 1;216(1):55-7.
Shelton GD, Ho M, Kass PH.

目的: 猫の後天性重症筋無力症(MG)の初期の臨床症状の発生率と危険因子を決定する。

設計: 回顧的症例対照研究

動物: 後天性重症筋無力症と確定診断したアメリカ合衆国、カナダ、イギリスからの105頭の猫と全身性虚脱、巨大食道そして嚥下障害など他の神経筋疾患を伴う510頭の猫(コントロールグループ)
方法: アセチルコリンレセプター抗体価を検査した血清サンプルの結果を含むデータベースから記録を回収した。品種、年齢そして出身国あるいは州、初発月そして初期の臨床症状を含むシグナルメントを得た。アセチルコリンレセプター抗体価> 0.3 nmol/Lで後天性重症筋無力症と診断した。統計解析に無条件のロジスティック回帰を使った。

結果: 雑種猫に比べ、後天性重症筋無力症の最も高い相対危険度を持つ品種はアビシニアン(ソマリを含む)だった。明らかな性差は認められなかった。州あるいは国の違いによる重症筋無力症に対するリスクにおいて納得できるエビデンスはなかった。3歳を過ぎると相対危険度が増加した。最も一般的な臨床症状は巨大食道を伴わない全身性虚弱と前縦隔マスと関連した虚弱だった。全身性虚弱の徴候を伴わない巨大食道や嚥下障害などの局所の症状も明白だった。

結論と臨床関連:アビシニアン(と関連したソマリ)の後天性重症筋無力症の品種素因が観察された。臨床徴候は様々で、全身性虚弱、巨大食道そして嚥下障害が含まれた。前縦隔マスは一般的に猫の重症筋無力症と関連があった。(Dr.Kawano訳)
■スムースヘアーミニチュアダックスフントにおける先天性重症筋無力症
Congenital Myasthenia Gravis in Smooth-Haired Miniature Dachshund Dogs
J Vet Intern Med 19[6]:920-923 Nov-Dec'05 Case Report 25 Refs
Peter J. Dickinson, Beverly K. Sturges, G. Diane Shelton, and Richard A. LeCouteur

8週齢ミニチュアスムースヘアーダックスフント同腹子3頭を、臨床症状、電気生理学検査の結果、短時間作用抗コリンエステラーゼ薬塩化エドロホニウムに対する反応から重症筋無力症と診断した。先天性重症筋無力症は、明白な血清アセチルコリンレセプター抗体の欠如、または筋バイオプシーサンプルでアセチルコリンレセプターに結合した抗体の欠如で、外肋間筋のアセチルコリンレセプター密度の減少を示すことにより確認した。先天性重症筋無力症の症例はひどく進行していくという過去の多くの報告とは違い、臨床症状は6ヶ月までに自然に解消した。(Sato訳)
■犬の後天性重症筋無力症の危険因子:1,154 症例 (1991-1995)
Risk factors for acquired myasthenia gravis in dogs: 1,154 cases (1991-1995).
J Am Vet Med Assoc. 1997 Dec 1;211(11):1428-31.
Shelton GD, Schule A, Kass PH.

目的:犬の後天性重症筋無力症(MG)の初期の臨床的徴候の頻度と危険因子を決定すること

計画:回顧的研究

検体母集団:1991年から1995年までに後天性無症筋無力症と確定診断された合衆国に住む犬1154頭と全身衰弱、巨大食道、および嚥下困難を含む他の神経筋疾患に罹患した犬7176頭の犬(コントロールグループ)
手順:アセチルコリンレセプター抗体を検査するための血清検体の結果を含むデータベースから記録を検索した。シグナルメント、品種、年齢、発現状況そして臨床兆候開始の月齢が得られた。
抗体価が 0.6 nmol/Lより高いと後天性MGと診断した。無条件のロジスティクス回帰を統計分析に使用した。

結果:雑種犬との比較では、後天性MGのハイリスク犬は秋田犬、テリアグループ、スコティシュテリア、ジャーマンショートヘアードポインター、そしてチワワだった。ロットワイラー、ドーベルマン・ピンシェル、ダルメシアン、およびジャックラッセルテリアは、相対的にローリスクだった。 性的にインタクトのオスと1歳未満の犬はリスクから免れた。
巨大食道に伴う全身衰弱と単独の巨大食道は最も一般的な初期の臨床的徴候だった。

臨床関連: 後天性MGの好発品種が示された。年齢と性別は要因となった。ほとんどの犬が全身的な臨床的徴候を示したが、かなりの割合で局所的な兆候があった。(Dr.Kawano訳)
■犬重症筋無力症の自然寛解:ヒト重症筋無力症療法の評価に対するかかわり
Spontaneous remission in canine myasthenia gravis: implications for assessing human MG therapies.
Neurology 57[11]:2139-41 2001 Dec 11
Shelton GD, Lindstrom JM

自己免疫性犬重症筋無力症の自然経過を、筋肉薄弱でアセチルコリン受容体抗体価陽性の犬53頭で調査しました。免疫抑制剤を使用せずに、抗コリンエステラーゼで治療しました。自然に臨床、免疫学的寛解が平均6.4ヶ月以内に53頭中47頭で見られました。自然寛解しなかった6頭には腫瘍を確認しました。この研究は、免疫療法の効果を評価するための研究に、犬重症筋無力症を使用する価値を疑問視するものです。(Sato訳)
■重症筋無力症における、プレドニゾロン単独とアザチオプリン併用治療の無作為的二重盲目試験。重症筋無力症研究グループ
Palace J et al; Neurology 50[6]:1778-83 1998 Jun; A randomized double-blind trial of prednisolone alone or with azathioprine in myasthenia gravis. Myasthenia Gravis Study Group.

我々は重症筋無力症(MG)の治療において、プレドニゾロン(PRED)とアザチオプリン(AZA)併用治療と、プレドニゾロン単独治療を比較しました。PRED単独またはAZAとの併用はMGの治療で広く使用されておりますが、無作為的プラセボコントロール比較試験のデータは取られておりません。今回、34人のMG患者を対象にプレドニゾロン用量と臨床成果を、複数の医療機関にまたがって無作為的二重盲目試験を行い、3年間の追跡調査で比較をしました。
 1つのグループ(PRED+AZA)はプレドニゾロン(隔日投与)とアザチオプリン(2.5mg/kg)、他のグループにはプレドニゾロン隔日投与とプラセボ(PRED+PLAC)を処方しました。
 初期の高用量プレドニゾロン(1.5mg/kg隔日投与)は、持続寛解に必要な最低用量まで漸減しました。プレドニゾロン用量は、1年(中間値:PRED+AZA,37.5mg隔日投与、PRED+PLAC,45mg隔日投与)で2つのグループ間に有意差はありませんでしたが、PRED+AZAグループにおいて2年、3年後投与を減ずることができました(3年後中間値:PRED+AZA,0mg隔日投与、PRED+PLAC,40mg隔日投与、p=0.02)。 再発と3年以上の寛解が得られないものは、PRED+PLACグループにより多く見られました。2年でPRED+PLACグループにおける、抗アセチルコリンレセプター(AChR)力価に急激な上昇がありました。副作用の発現はPRED+AZAグループでわずかに少ない傾向がありました。
 抗体陽性の全身性MG治療におけるプレドニゾロン隔日投与の補助としてのアザチオプリンは、プレドニゾロンの維持量を減らし、より少ない治療失敗、長期寛解、そしてより少ない副作用と関連がありました。(Dr.K訳)

■5頭の犬における後天性重症筋無力症に対するアザチオプリン療法
C. W. Dewey, DVM, MS, DACVIM, DACVS et al; J Am Anim Hosp Assoc 35[5]:396-402 Sep/Oct'99 Original Article 33 Refs; Azathioprine Therapy for Acquired Myasthenia Gravis in Five Dogs

後天性重症筋無力症(MG)は、骨格筋神経筋接合部のニコチン様アセチルコリン(Ach)受容体に対する自己抗体の産生で、免疫介在性疾患として明確に特徴付けられております。神経筋伝達障害の結果、筋肉虚弱、そして犬の食道における骨格筋の割合が高いことで、犬に特徴的であるとされる巨大食道症として、臨床的に証明されます。免疫抑制剤は抗コリンエステラーゼ作用薬との併用で、人の筋無力症において一般的かつ効果的に使用されます。プレドニゾロンとアザチオプリン(AZA)は人の後天性筋無力症の治療でもっとも広範に使用される免疫抑制剤で、単独または併用で用いられます。この症例集の目的は5頭の犬における後天性MGに対する治療でAZAの使用に関して報告することと、犬後天性MG治療薬としてAZAの潜在的役割を検討することであります。

血清Ach受容体抗体濃度陽性が立証された、後天性MGの犬5頭を、治療中ある段階で唯一の免疫抑制治療として、AZAを用いた薬物プロトコールで治療を行いました。5頭のうち4頭の犬は不定期間のメスチノン(臭化ピリドスチグミン)治療を行い、ある犬は一時的にプレドニゾンの免疫抑制用量とAZA併用の治療を行いました。そして別の犬は飼い主の金銭的制約により、プレドニゾン(臨床的寛解の後で)に維持を切り替えられました。この報告の4頭の犬は、AZA治療の最初の3ヵ月以内に、劇的な臨床的改善と血清Ach抗体濃度の減少の両方を示して後天性MGを克服しました。1頭の犬は改善せず、AZAの有効量にいたる前に筋無力症のため死亡したらしいです。
著者は今回の研究結果が、犬の後天性MGに対する治療としてのAZAのさらに進んだ調査報告を裏付けるものであると結論づけます。(Dr.K訳)

■後天性重症筋無力症と仮定甲状腺機能低下症の犬5頭における神経筋機能障害
Curtis Wells Dewey et al; Prog Vet Neurol 6[4]:117-123 Winter'95 Clinical Report 43 Refs; Neuromuscular Dysfunction in Five Dogs With Acquired Myasthenia Gravis and Presumptive Hypothyroidism

免疫介在性甲状腺疾患と後天性重症筋無力症との関連は人において認められます。同様な関連性が犬でも示唆されております。5頭の犬がさまざまな程度の神経筋機能障害で来院し、それぞれに巨大食道症に一致した、臨床徴候とレントゲン所見を認めました。それぞれの犬において、血清アセチルコリン(Ach)受容体抗体濃度が陽性で、MGであることが確定診断されました。5頭のうち2頭は、末梢性多発神経疾患の臨床徴候を呈し、これらのうち1頭は、一般的な腓骨神経のバイオプシーにおける髄鞘破壊と軸索壊死が認められ、ニューロパシーと確定診断されました。3頭目の犬は、筋電図検査と筋肉バイオプシーで、多発性筋炎と確定されました。5頭の犬全てにおいて臨床徴候、血清甲状腺ホルモン(T4)濃度低値に基づき、そのうち2頭においては甲状腺刺激ホルモン(TSH)反応試験をおこない、甲状腺機能低下症と仮診断をしました。甲状腺機能低下症であることをより裏付けるものとして、甲状腺ホルモン補充後まもなくの臨床徴候改善がありました。今回の研究における症例は、甲状腺機能低下症と後天性重症筋無力症との関連が、犬に存在することを示唆しております。 (Dr.K訳)

★後天性重症筋無力症:食道、喉頭、そして顔面筋肉における選択的関係
G. Diane Shelton, DVM, PhD et al; J Vet Intern Med 4[6]:281-284 Nov/Dec'90 17 Refs; Acquired myasthenia gravis--Selective involvement of esophageal, pharyngeal, and facial muscles
-特発性巨大食道症と診断された152頭の犬における血清学的研究

実験計画:免疫沈降反応ラジオイムノアッセイによりアセチルコリン受容体に対する抗体の存在に関し、血清検査を行いました。力価>0.6nmol/Lは、重症筋無力症とみなされます。追加として、神経筋接合部の免疫複合体を検出するために、免疫細胞化学法を用いました。

病歴・臨床徴候:全ての犬は、特発性巨大食道症が診断されていて、その中には咽頭麻痺と眼瞼反射の減退の両方、または一方が認められたものもありました。研究に用いられた全ての犬において全身性筋肉虚弱の臨床的徴候はありませんでした。

結果:>0.6nmol/Lの血清アセチルコリン受容体抗体力価は、40/152[26%]の犬で認められました。陽性力価は0.77-30nmol/L[平均=3.1]の範囲にありました。神経筋接合部に対する局所免疫複合体は、血清アセチルコリン受容体力価陽性である犬の38/40[95%]と、陰性力価である犬の17/112[15%]に認められました。

疾病素因:血清アセチルコリン受容体力価陽性である40頭のうち、もっとも一般的に冒されていた品種はジャーマン・シェパード[8/40,25頭が参加]、ゴールデン・レトリバー[7/40,20頭が参加]、ラブラドール・レトリバー[4/40,16頭が参加]でありました。

診断:血清学を基盤として、重症筋無力症に起因する巨大食道症は、以前に特発性巨大食道症であると診断された犬の40/152[26%]で診断されました。

筋電図検査所見:反復性神経刺激における複合筋活動電位の減少は、今回の研究において血清アセチルコリン受容体力価陽性であった、2頭の犬の四肢筋肉で認められました。

治療:血清アセチルコリン受容体力価陽性であった犬の治療を17頭で行い、食事と飲水を高いところで行うだけ[7/17]、臭化ピリドスチグミン単独[6/17]、プレドニゾロン単独[3/17]、臭化ピリドスチグミンとプレドニゾロンの併用[1/17]を用いました。

結果:追跡調査が可能だったのは、血清アセチルコリン受容体力価陽性であった犬の35/40頭でした。35頭中12頭は治療せずに安楽死され、6頭は吸引性肺炎または窒息により死亡、17頭は治療を行いました。治療が行われた17頭のうち6頭が、1ヵ月以内に1年以上の完全な寛解[レントゲン上と臨床的に]を現わし、抗体力価<0.6nmol/Lまでの減少と関連がありました。残った11頭の犬で、臨床的改善と抗体力価の減少が認められました。

論評:人の重症筋無力症で起こる全身性筋肉虚弱よりも病巣は外眼筋が冒されるだけというものでした。この研究では、犬において食道横紋筋に対する類似した病巣が、犬の重症筋無力症で起こり得ることを指摘しております。全身性筋無力症の仮定診断に有用なテンシロン試験は、眼瞼反射改善の有無が見られるかもしれない顔面麻痺の症例を除き、局所重症筋無力症の診断における有用性が立証されておりません。(Dr.K訳)